戲れに 伊良子清白
戲れに 伊良子清白
わが居る家の大地に
黑き帝の住みたまひ
地震の踊の優なれば
下り來れと勅あれど
われは行きえず人なれば
わが居る家の大空に
白き女王の住みたまひ
星の祭の艶なれば
上り來れと勅あれど
われは行きえず人なれば
わが居る家の古厨子に
遠き御祖の住みたまひ
とこ降る花のたへなれば
開けて來れとのたまへど
われは行きえず人なれば
わが居る家の厨内
働く妻をよびとめて
夕の設をたづぬるに
好める魚のありければ
われは行きけり人なれば
*[やぶちゃん注:以下、底本準拠総ルビ。]
戲(たはぶ)れに 伊良子清白
わが居(を)る家(いへ)の大地(おほづち)に
黑(くろ)き帝(みかど)の住(す)みたまひ
地震(なゐ)の踊(をどり)の優(いう)なれば
下(くだ)り來(きた)れと勅(ちよく)あれど
われは行(ゆ)きえず人(ひと)なれば
わが居(を)る家(いへ)の大空(おほぞら)に
白(しろ)き女王(めぎみ)の住(す)みたまひ
星(ほし)の祭(まつり)の艶(えん)なれば
上(のぼ)り來(きた)れと勅(ちよく)あれど
われは行(ゆ)きえず人(ひと)なれば
わが居(を)る家(いへ)の古厨子(ふるづし)に
遠(とほ)き御祖(みおや)の住(す)みたまひ
とこ降(ふ)る花(はな)のたへなれば
開(あ)けて來(きた)れとのたまへど
われは行(ゆ)きえず人(ひと)なれば
わが居(を)る家(いへ)の厨内(くりやうち)
働(はたらく)く妻(つま)をよびとめて
夕(ゆふべ)の設(まけ)をたづぬるに
好(この)める魚(うを)のありければ
われは行(ゆ)きけり人(ひと)なれば