五月野 伊良子清白
五月野 伊良子清白
五月野の昼しみら
瑠璃囀の鳥なきて
草長き南國
極熱の日に火ゆる
謎と組む曲路
深沼の岸に盡き
人形の樹立見る
石の間青き水
水を截る圓肩に
睡蓮花を分け
のぼりくる美し君
柔かに眼を開けて
王藻髪捌け落ち
真素膚に翻へる浪
木々の道木々に倚り
多の草多にふむ
葉の裏に虹懸り
姫の路金撲つ
大地の人離野
變化居る白日時
垂鈴の百済物
熟れ撓む石の上
みだれ伏す姫の髪
高圓の日に乾く
手枕の腕つき
白玉の夢を展べ
処女子の胸肉は
力ある足の弓
五月野の濡跡道
深沼の小黑水
落星のかくれ所と
傳へきく人の子等
空像の數知らず
うかびくる岸の隈
湧き上ぼる高水に
いま起る物の音
めざめたる姫の面
丹穂なす火にもえて
たわわ髪身を起す
光宮玉の人
微笑みて下り行く
湖の底姫の國
足うらふむ水の梯
物の音遠ざかる
目路のはて岸木立
晝下ちず日の眞洞
迷野の道の奥
水姫を誰知らむ
*[やぶちゃん注:以下、底本準拠総ルビ。]
五月野(さつきの) 伊良子清白
五月野(さつきの)の昼(ひる)しみら
瑠璃(るり)囀(てん)の鳥(とり)なきて
草(くさ)長(なが)き南國(みなみぐに)
極熱(ごくねつ)の日(ひ)に火(も)ゆる
謎(なぞ)と組(く)む曲路(まがりみち)
深沼(ふけぬま)の岸(きし)に盡き
人形(ひとがた)の樹立(こだち)見(み)る
石(いし)の間(ひま)青(あお)き水(みづ)
水(みづ)を截(き)る圓肩(まろがた)に
睡蓮(ひつじぐさ)花(はな)を分(わ)け
のぼりくる美(うま)し君(きみ)
柔(やはら)かに眼(め)を開(あ)けて
王藻髪(たまもがみ)捌(さば)け落(お)ち
真素膚(ますはだ)に翻(か)へる浪(なみ)
木々(きぎ)の道(みち)木々(きぎ)に倚(よ)り
多(さは)の草(くさ)多(さは)にふむ
葉(は)の裏(うら)に虹(にじ)懸(かゝ)り
姫(ひめ)の路(みち)金(こがね)撲(う)つ
大地(おほづち)の人離野(ひとがれの)
變化(へんげ)居(を)る白日時(まひるどき)
垂鈴(たりすゞ)の百済物(くだらもの)
熟(う)れ撓(たわ)む石(いし)の上(うへ)
みだれ伏(ふ)す姫(ひめ)の髪(かみ)
高圓(たかまど)の日(ひ)に乾(かは)く
手枕(たまくら)の腕(かひな)つき
白玉(しらたま)の夢(ゆめ)を展(の)べ
処女子(をとめご)の胸肉(むなじゝ)は
力(ちから)ある足(たり)の弓(ゆみ)
五月野(さつきの)の濡跡道(ぬれとみち)
深沼(ふけぬま)の小黑水(をぐろみづ)
落星(おちぼし)のかくれ所(ど)と
傳(つた)へきく人(ひと)の子等(こら)
空像(うたかた)の數(かず)知(し)らず
うかびくる岸(きし)の隈(くま)
湧(わ)き上(のぼ)ぼる高水(たまみづ)に
いま起(おこ)る物(もの)の音(おと)
めざめたる姫(ひめ)の面(おも)
丹穂(にのほ)なす火(ひ)にもえて
たわわ髪(がみ)身(み)を起(おこ)す
光宮(ひかりみや)玉(たま)の人(ひと)
微笑(ほゝえ)みて下(くだ)り行(ゆ)く
湖(うみ)の底(そこ)姫(ひめ)の國(くに)
足(あ)うらふむ水(みづ)の梯(はし)
物(もの)の音(おと)遠(とほ)ざかる
目路(めぢ)のはて岸木立(きしこだち)
晝(ひる)下(お)ちず日(ひ)の眞洞(まほら)
迷野(まよひの)の道(みち)の奥(おく)
水姫(みづひめ)を誰(たれ)知(し)らむ