思い出す事など 二
小学校2年生の時、近くの切通しで若いカップルの乗ったバイクが切岸に激突して二人とも即死した。翌日、土曜の学校の帰りに遠回りをして、僕はその場所に立っていた。7月の日差しが眩しくて、不思議に人影も車もなかったのだった。……道に二人の死者の交じり合った血餅が一塊あった。僕は木の枝でそれをかき混ぜる……それは僕の知った初めての人の「生」であったのだ……そうして僕は何をしたか? 今、僕はそれを思い出した……その腥い血糊で僕は確かに円を描いたのだった……今、ふと思う。僕はあの時、「先生」だったのだ。あの「こゝろ」の「先生」だったのだ……