炎暑を待つ 増田晃
炎暑を待つ 増田晃
青鳶色の梅雨あがりの空を壓する
熟した麥の黄金色の匂ひよ
それはながらく見なかつた七月の太陽が
處女の胸になげる最初の接吻である
初夏のいろの土壤に
いま烈しい息づかひはみちる
それはかゞやかしい愛人の髪にきらめく
うす赤い天鵞絨のやうな七月である
そのとき熟れ麥の匂は胸をいため
いたむ胸はうれた杏のやうにふるへ
私たちはだまつて手に手を重ねたまゝ
炎暑の快い鞭を待つてゐるのだ
[やぶちゃん注:「天鵞絨」の読みは「ビロード(びろうど)」。Veludo(ポルトガル語)。]