春 増田晃
春 増田晃
朱い花が光る春! 春!
あたりは太陽の和いだ光に匂ひつつ
微笑むやうにたつぷり搖ぐ。
私のこころは霞む風車になり
くるくる乳色の空を廻しつつ
たのしい春の愛のなかに光を曳く。
青く二三寸の麥 微風(そよかぜ)、
たつぷりと流れる春 田川、
なんでもかんでも幻を重ねるやうに
つぎ/\にかすんでゆく春。
私はその心を野に投出す。
そして堪へきれない花の朱にもえて
傷んだ胸に太陽を抱きこむ。
なつかしい匂が地上にみちるとき
私のすがたは影となつてしまふ。
そのとき明るい素足をみせて
また新しい唄をはこんで來た春!
細い金の素絹を曳いて
春の蜜蜂の羽音です。
ふるえる胸にもえだす春の芽を
南國の小歌で匂はせるために!
[やぶちゃん注:「朱」は「しゆ」とも「あけ」とも読まれるが、感覚的には「あけ」をとる。「小歌」は「こうた」では邦楽のイメージが付随する。「せうか」と読みたい。]