宣敍調 増田晃
宣敍調 増田晃
田鶴がはぐれて秋の澤べを鳴き落ちてゆくごとく
海へ去りし友のうへを寂しみて暮しぬ
籔鶯がさゝやかな願ひを口籠る間に捕はるるごとく
遠く嫁したる乙女のうへをわれら寂しみて暮しぬ
落ちし葉ならば掃くべきに芙蓉の薄紅き花びらなれば
捕もちさへ知らぬ小鳥なればわれら寂しみて暮らしぬ
[やぶちゃん注:題名の「宣敍調」とは激情を込めた表現の意。
・「田鶴」は「たづ」と読み、ツル(ツル科Gruidae)を指す。歌語。
・「籔鶯」は、種としてはスズメ目ウグイス科のウグイスを指す。ウグイスは秋から春にかけて平地や低山で過し、チャチャという独特の「笹鳴き」をしながら、藪を伝って飛翔するため、この時期、この名を戴く。]