バルコン 増田晃
バルコン 増田晃
海のみえるバルコン
しつとり青む高麗芝のうへ
けふも快い壓迫がわが八月をたたへる。
透きとほつた朝の清いめぐみは
ちらちら葡萄の葉蔭に明んでゐる。
私は夏の白磁の花瓶を見つめながら
けふもくる白いレエスの少女を思ひつづける。
明るいあさの野菜のやうに
夏の日光がきらきらその髪にかゞやく。
「海にゆきませうよ」
ああやがて健康な微笑が幸福な一日を迎へにくるのだ。
眞紅や黄に盲ひたカンナの炎を
芭蕉の巻葉にうつして潮風がかよふ。
そして私は晴れがましい胸の日光をかきわける。
ああ紺青の海につづく空の爽かさよ。
私は魚のやうな少女と一しよに
沖遠く幸を求めつつ泳いでゆかう。
[やぶちゃん注:「高麗芝」はコウライシバ。シバと共に芝に利用される代表種。シバに比して葉が細く、更に管状に巻く。]