彈曲 増田晃
彈曲 増田晃
そのかみ愛の女神(めがみ)は二羽の鵠(くぐひ)をいとしみぬ。
大空に漉されし二重(ふたへ)の虹のごとく
つねに竝び飛びきよき思ひを語らひぬ。
ああされど妬みの神ぞ呪はしき。
ひと日かれら夕まけてたかき御空に歸るとき、
俄に霧をしてその路を横切らしめ、
つひに誓はれしその仲をさきたり。
年經たる二十年後(のち) この世の隅にて、
偶然は二羽にかなしき運合(めぐりあはせ)を惠みぬ。
かれら相抱き嬉しみ泣きて盲へども
されど女神の叫ぶらく、「噫かなし かなし!
汝らに罪ありや 汝らに裏切りありや、
見よ はや一羽の鷹は爪とぎぬ。
ああわが子らがこの膝に戻りくる日は既になし。」
[やぶちゃん注:「鵠」はカモ科ハクチョウ亜科のハクチョウ(総称)の古名。本詩集の題名は「白鳥」。]