南佐久の夜の壽歌 増田晃
南佐久の夜の壽歌 増田晃
女山のやすらかな裾原の
夜(よ)をひびきゆく瀨音、
その水音に耳澄ますものは
月光の銀の鬚研ぐ男山、
また曙がたいつも霧を孕む
優しく煙りこむ深い谷々、
また答へさへなき木魂(エコオ)
妻を呼んで寂しく鳴く梟ら
また夜露に濡れた丹や紫の躑躅(つつじ)に
踊りつかれた仙女の一むれ………
[やぶちゃん注:「南佐久」は現在の長野県南佐久郡。「壽歌」は「ほきうた」。「ほぎうた」と濁るのは近世以降で、他の詩にも通底する原初的な増田のイメージを尊重するならば、私は是非「ほきうた」と読みたい。
・「女山」は「おんなやま」で、南佐久郡川上村にある。標高1734m。同村の千曲川を挟んだ北の標高1851mの男山と対をなす。
・「梟」はフクロウ目フクロウ科フクロウ。彼らは原則的に一夫一婦制である。]
« 村上昭夫忌 | トップページ | 月光の幻影 増田晃 »