水の反映 増田晃
水の反映 増田晃
黄いろい月がかたぶきながら
赤紫の貝やぐらを薫らすやうに
水がかがやく かがやきながら………
日に燃える灼金のはちすに
神々の讃へのうたが匂ふやうに
水がかがやく
黒水晶を撒くアコーデイオンの音いろ
青い薄荷のにほひ ゆめの螢
水がかがやく かがやきながら………
若草のやうにふるへる睫毛を
まぶしさうに伏せて羞かみながら
水がかがやく
水がかがやく 漣がうつる
見のこした夢を思ひだしたやうに
かすかな笑ひ聲をたてて漣がうつる
枯くさがほつかり積んであるあたりで
櫻草の戀のうたがまどろむやうに
水がうたふ うたひながら………
ピアノの白いキイを走る指が
みだれてほぐれて吹雪のやうに
水がうたふ
幼いころほのぼの聞いたあの子守歌
桃太郎のもつてゐた白い旗印を
水がうたふ うたひながら………
お母さん 白金の螢 螢のやうな私
さういひながらも ついうとうととして
水がうたふ
水がかがやく 漣がうつる
見のこした夢を思ひだしたやうに
かすかな笑ひ聲をたてて漣がうつる
[やぶちゃん注:・「貝やぐら」は蜃気楼。
・「薫らす」は「薫(くゆ)らす」で、煙を立たせる、くすべる、いぶらす、といった意味であるが、ここでは「ゆらめく蜃気楼を更にゆらゆらとぼんやりさせるかのように」といった意味であろう。
・「灼金」の読みは不明。音ならば「しやくきん」、訓ずるとすれば「やきがね」「やけがね」(刀が合して擦れ合う際に流れ下る火花をこのように表現するようである)。焼いて赤くなった鉄を言い、蓮の枯れた葉莖部を言うか。枯れては居らず、単にまぶしい陽光を反射している蓮の葉をこのように描写したとも取れる。]