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2007/10/02

田園讃歌二篇 増田晃

 田園讃歌二篇   増田晃

     田園讃歌1

青いハコベの花は
田のくろにリボンをつなぐ
鐡氣をふくんだ水の淀みは
人蔘の匂がする

蕎麥いろの穗は
土のくちづけにむせかへり
果もないその湖のむかふに
鳩ほどの小ささの藁葺が光る

麥の醸しだすあつい息は
まるでカラメルのやうに泡立ちふくれる
遠くの方で稻びかりが閃く
私のうでは膏肉やうに顫へる

ああ たくさんのこの大根の花の
戀に醉ひきつたまぶしい歌は
目にみえぬ細い鞭で打たれて
びちびち鳴つてゐるやうだ

そして私にもやさしいひとがゐたならば
この麥畑の穗のなかに跳びこんで
てうど兎のやうにかたく抱きあつて
おもひきり驚いて跳び出してみやう

そしてやがて襲ひかかる夕立に打たれ
大粒の寒天のやうな雨つぶに打たれて
私たちは默つて抱きあつて
そのはげしい苛責にあへぐだらう

[やぶちゃん注:・「ハコベ」は春の七草の一つであるが、十数種存在するナデシコ科ハコベ属の植物の総称。繁縷、蘩蔞。ハコベラとも言う。代表種として三種を掲げる。ハコベ(コハコベ)、ミドリハコベ、ウシハコベ 。
・「くろ」は畦(あぜ)。
・「鐡氣」は「かなけ」もしくは「かなつけ」。
・「人蔘」は人参。
・「蕎麥」は「そば」であるが、「蕎麥いろの穗」であるから、後連から麦の穂の色の形容。
・「藁葺」は「わらぶき」。藁葺き屋根の家。
・「カラメルのやうに泡立ちふくれる」は、私には直ぐ後にある「淺草」の詩から引かれる連想で、テキヤのカラメル焼きを連想させる。私の記憶にあるカラメル焼きは、まさに浅草の景色なのだ。これは読者である私の個別的解釈に過ぎないことは分かっているが、私にはひどく懐かしい連想なのである。私はこの部分を恐らく他者よりも比較的豊かにイメージできると自負するものである。
・「膏肉」は音は「かうにく」であるが私は「あぶらみ」と当て読みしたい。
・「苛責」は「呵責」であるが、このように「苛責」とも「呵嘖」とも書く。厳しい責め。]

 

     田園讃歌2

ぼくらは走つた
青い母胎の
光る小蒲団(クツシヨン)をふんで!
渦巻く乳房の
ふくらむ大地をふんで!

ほくらは醉つた
咽ぶ罌粟の花の
したたる甘い蜜に
あらはなその両脛を
憑かれたやうに火傷して!

ああ 日の祭典の
とめどもない哄笑の
紫水晶(アメチスト)をあびて!
花にあふれた大空に
野生の骰子筒(さいころ)を投げて!

めくるめく日の酒の
この靈感にぼくらは醉はう
薔薇や白金や青の花蕋の
ちひさな戀人たちに
ぼくらの狂喜を告げよう

そして明るい喜劇の
くるほしい幕間のうちに
ぼくらは拔足で逃げてゆかう
ぼくらの愛をあの木蔭の
涼しい青玉(サフアイア)で飾るために!

[やぶちゃん注:・「罌粟」は「けし」。「芥子」とも書く。ケシ科ケシ属ケシに属する一年草。これを現実の景とするならば、鴉片(アヘン)を含まない観賞用のボタンゲシとせねばならないが、その必要はあるまい。増田の好む花である。
・「紫水晶(アメチスト)」の「アメチスト」は当時のルビ活字の限界から「ヂ」であった可能性も考えられる。
・「骰子筒」を「さいころ」と読ませるのは、異例と思われる。骰子を振るための「さいづつ」を指す語の敷衍的用法か。関連があるかないかは分からないが、古書店目録に昭和4(1929)年3月発行の雑誌「詩と詩論」3号に「『マックス・ジャコブ「骰子筒」詩』川冬彦訳」の目次を見る(詩の内容や「骰子筒」を「さいころ」と読ませるかどうかは不明)。
・「霊感」の「感」の活字は「心」「口」の下に入り込んでいる。
・「薔薇」は可愛らしい野生のノイバラ等の花を想起するべきであろう。
・「白金」は「しろかね」もしくは「しろかねそう」を指すと思われる。 キンポウゲ科シロカネソウ属で、正式和名ツルシロカネソウ。4~5月にかけて、可憐な白い小さな花をつける。
・「青の花蕋」は、これだけが植物の「花蕋」、かずい=しべを提示し、またそれが青いというのは、不自然な気がする。ここには是非、ノイバラ・シロカネソウに並ぶ花がこなくてはおかしい。私の勝手な想像であるが、これは「青の花韮」の誤植ではなかろうか。ユリ科イフェイオン属のハナニラは、青い星型の妖精のような花を咲かす。私見へのご意見を是非乞う。]

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