悼猪瀬達郎先生
今日、僕が唯一国語の教師の「師」として尊敬する猪瀬達郎先生が、一月二十一日に肝不全で亡くなったことを知った(故人の遺志により自由葬・御香料・御供物等一切無用とのこと)。
梶井基次郎論が卒論であり、主任教授だった吉田精一が大学院に残って一緒に研究しないかと水を向けた切れ者、舞岡高校で御一緒してからというもの、定年後も肝臓癌と同棲しながら、僕の青臭い文学論を昔と変わらず酒を介して対等に相手してくれた気骨ある国語教師、昨年冨永太郎文学展に御一緒した折ここ一番小説を書くことを薦め、その気になったおられたのに――いや、何よりも文学者は須らく売文の士に過ぎぬことを教えてくれた唯一の「僕のラビ」であった――
その最後の言葉を奥様から頂いた御手紙から引用する。
*
一年ほど前から予感はありました。
しかし老少不定 人それぞれに定命というものがある。
自分の一生をふり返ってみると苦労の連続の中で成長し、長ずるに及んでは、さしたる社会的貢献もせずに今日まで来てしまった。しかし格別の悔いもない。
平々凡々の人生に今は満足して宇宙の塵になるつもりです。
では 皆様さようなら
猪 瀬 達 郎
平成二十年一月十日 記
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