教え子のメールから「猪瀬先生の笑顔に」
友を喪ふ 四章
三好達治
首 途
眞夜中に 格納庫を出た飛行船は
ひとしきり咳をして 薔薇の花ほど血を吐いて
梶井君 君はそのまま昇天した
友よ ああ暫らくのお別れだ・・・ おつつけ僕から訪ねよう!
展 墓
梶井君 今僕のかうして窓から眺めてゐる 病院の庭に
山羊の親仔が鳴いてゐる 新緑の梢を雲が飛びすぎる
その樹立の向こうに 籠の雲雀が歌つてゐる
僕は考へる ここを退院したなら 君のお墓に詣らうと
路 上
巻いた樂譜を手にもつて 君は丘から降りてきた 歌ひながら
村から僕は歸つてきた ステッキを振りながら
・・・ある雲は夕燒のして春の畠
それはそのまま思ひ出のやうなひと時を 遠くに富士がみえて
服 喪
啼きながら鴉がすぎる いま春の日の眞晝どき
僕の心は喪服を着て 窓に凭れる 友よ
友よ 空に消えた鴉の聲 木の間を歩む少女らの
日向に光る黑髪の 悲しや 美しや あはれ命あるこのひと時を 僕は見る
*
――僕のブログから猪瀬達郎先生の訃報を知った昔の教え子が 今さっき僕に送ってくれたメールから――そうだね、猪瀬先生の笑顔は最後まで少年だった――