帰還?
満開の河津桜――凍った道の天城越え――小樽の鰊御殿の足の裏の冷え――しかし……僕の魂はもう、こないだからずっと――気がついた時からずっと永いこと――空き家の忘れられた大隈半島の山間の村、岩川の――荒れ果てたあの祖父の歯科医院の家の入り口から――淋しい裏木戸へとゆっくりと虚しくフレームアップしてゆく……
――今、僕には、母や妻や父だけが――何故かひどく懐かしく寂しい……それはバッハのBWV614の流れ――タルコフスキイの「鏡」のオープニングタイトルの、あの音楽のように――そうして、「ヨハネ」の奔流のほとばしりと共に、時空間をフレームアウトしてゆくあの、エンディングの映像のように……しかし、これはきっと誰にも分からない――誰にも分からない――その、母や妻や父にで、さえも……
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