フリードリヒ「樫の森の中の修道院」“Abtei im Eichwald”
1996年夏、僕は妻とフランクフルトから旧東ドイツへ入って西へと向かうフリーの旅をした。バッハの生地アイゼナハを訪れ、その山上にあるルターが聖書のドイツ語訳をしたワルトブルグ城に泊まり、ライプチヒでバッハの墓参、しかし、全く言葉が通じない(ドイツ語は二人とも全く分からない上に、ホテルマンも殆どがまだ英語が喋れなかった)ストレスで胃が痛くなりながらも、辿り着いたベルリンのナツィオナル・ガレリーで、念願のフリードリヒの作品群に逢った。HPトップにその折の「海辺の僧侶」の部分を大画面で掲載しているが、その折に僕が写したその他の写真も少しアップして行きたい。
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「樫の森の中の修道院」“Abte im Eichwald”(部分)
1809~10 カンヴァス 油彩 110.4×171㎝
これは彼の作品として最も知られる、あのグライフスヴァルト郊外にある「エルデナ修道院跡」がモデルとなっている。
……曙の時、捩れた樫の木立が空を摑む。修道院の壁はかろうじて前方の部分のみが残りそそり立つ。その下方には、この廃院の空虚な入り口(そこには中央に十字架が見える)、門の更に手前の雪原には、真新しい墓穴が掘られ、土の地肌をのぞかせている。絵の左右の暗い雪原には、点々と墓標が立つ。そこへ仲間のものと思しい柩を担いだ黒い修道僧の列が闇の奥へと粛々と進む。――
それは厳粛な死の観想である。コントラストの悪い写真版や書籍の小さな挿絵では気づかないが、月は画面右上で、曙の中、白く光を失っている。作品の下部は薄闇に包まれているが、この空は晴れ渡った、澄んだ気に満ちている。それは旭日の予感である。これを不気味な絵としてはなるまい。光明の兆しこそがこの作品の静かな語りなのだ。
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