ツルゲーネフ「猟人日記」より中山省三郎訳「シチーグロフ郡のハムレット」
Иван Сергеевич Тургенев“Гамлет Щигровского уезда”、ツルゲーネフ原作・中山省三郎訳「シチーグロフ郡のハムレット」(「猟人日記」より)を正字正仮名で「心朽窩 新館」に公開した。
……あらゆる思想家や作家の真似をしているように、自分の意志ではなく、義務のように生きていると感じる「シチーグロフ郡のハムレット」……彼の人生……おじの財産横領……大学への失望……策略家としてのそれぞれの娘の親……彼の「よからぬ噂」とは?……退役陸軍大佐の未亡人の娘……ソフィアへの空想的な奇妙な愛情……ソフィアの結婚後の謎の抑鬱……それに纏わるハムレット自身の猜疑と不思議な自殺願望……そうして、そのソフィアの死に際してもハムレットはソフィアのメランコリーの理由を知りえないこと……
ハムレット……
優柔不断――生きているか死んでいるか分からないほど静かな知性の人――しかし内に狂気にさえ通じる感情を膨らませて乍ら――何ものをも信じ得ず判断を留保し続け苦悩する不幸な男……
……「シチーグロフ郡のハムレット」……とは、「ハムレット」ではない……或る部分が反転した、もうひとつの「こゝろ」の、生きてしまった「先生」の話である――
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もうひとつ、言おう。
不幸にも、且つ不遜にも、僕は大学生の時に「かういふ」「どこの郡にもたくさん居」る「ハムレット」の一人に自分を擬えていたではないか……そうしてそれは、今も変わらないような気がするのである――