3年目の朝
今朝は裏山からゆっくりと蜩の声(ね)が鳴き初(そ)めたが、ニイニイゼミがそれを掻き消したかと思うと、鶯の音が処々にリズムを打ち出して、すぐ近くの梢でタイワンリスの屈託のない声(こえ)がした。そうして、曙の終わりにカラスの声がコーダを鳴らして、音楽堂から引いてゆく観客たちの思い思いの勝手な喧騒のような夏の朝の無数の声々となった――僕はその音楽会とその後を聴き乍ら、何か今日が特別の日のような気がしていた。そうして、それは確かなことであった――今日はあの3年前の真鶴での骨折の日だったのであった――
考えてみると因縁の多い日並びだ。河童忌は7月24日、23日は映画「鬼火」のアランの自殺決行予定日である(但し、これは「遅れてるんだ」という台詞から奇しくも芥川龍之介と同じ24日であった可能性が高い)。
3年前の7月23日の手術は失敗し、凡そ一ヵ月後の二度目の手遅れの手術でボルト5本と共に右腕首に永久に嵌め込まれたチタン板のレントゲン写真は、不思議に蜩の形に似ている――僕は確かに不思議に蜩に生かされ生き延びているのである――

