猫 萩原朔太郎
猫
――光るものは屍蠟の手
まつくろけの猫が二疋、
ぴんとたてた尻尾のさきから、
いとのやうな三ケ月がかすんで居る。
『おわあ、こんばんは』
『おわあ、こんばんは』
『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』
『おわああ、ここの家の主人は病氣です』
――十五、四、一〇――
*
『ARS』第一巻第二号・大正4(1915)年5月号より。「月に吠える」所収のものとは異なる。底本は1975年筑摩書房刊の「萩原朔太郎全集」によった。傍点「ヽ」は下線に代えた。
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