其の夜の印象 尾形亀之助
「部屋を出て路に出た。雪が未だ降つてゐる。一時過ぎた頃だ。
寒いほら穴のような路をつれの男と歩く。
外燈の上にもポストの上にも雪がたまつてゐる穴の中を歩く熊のように。
二人の人間は化けもののようだつた。
演劇、展覧会、音楽会、詩、歌、小説、感想、同人、金、人、表紙、画などと部屋の中で話されたことが外へ出ると頭に浮んで来ない、寒いばかりだ。ほら穴のような路のごとく遠くの方に未来があるような気がする。
『玄土』――こゝで自分は育つか。『玄土』――それも育つか。
それから三年半ほど過ぎた、その間に色々なことが起つたがそんなことはかゝない方がよいと自分は思つてゐる。」
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(玄土第三巻第六号 大正11(1922)年6月発行)
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