ツルゲーネフ「猟人日記」より中山省三郎訳「ピョートル・ペトローヰッチ・カラターエフ」
Иван Сергеевич Тургенев“Петр Петрович Каратаев”ツルゲーネフ作・中山省三郎訳「ピョートル・ペトローヰッチ・カラターエフ」(「猟人日記」より)を正字正仮名で「心朽窩 新館」に公開した。
僕はこの一篇を読むのが好きだ。特に駆け落ちしたマトリョーナがピョートルと共に女主人の村へとこれ見よがしに雪橇するシーンが――橇はしかし、いっさんに悲劇へと滑ってゆく――僕にはここから後に短調のロシア民謡の調べが聴こえてくる――そうして、終曲のモスクワ――退廃した生活で身を持ち崩しているピョートル青年は「ハムレット」の台詞を吐く――実は哀しいマトリョーナの美しさ故ではない――僕がこの一篇に惹かれるのは――僕という存在がやっぱりラスコーリニコフ的存在ではなく――如何にも優柔不断で臆病で卑怯なハムレット的人格であることを知らされるから――である……
今回は同じ惨めなハムレットなればこそ、オリジナルの注釈にも力が入った。ご覧あれ。幾つかの留保事項もある。ロシア語に堪能な方の御教授を是非願いたい。