又は三角形の歴史――クレオパトラ 尾形亀之助
歴史(れきし)はナイルのやうに濁(にご)つて流れる。クレオパトラの鼻(はな)がよしやもー分低くも、むろん歴史は変つてはゐない。
歴史家を思案(しあん)さすほど美人(びじん)故、もろくもシイザー老は染毛(そめげ)をし、アントニウスも現(うつつ)をぬかした。
アラアの造物は尖(とが)つてピラミツドとなれば、彼女(かのじょ)の鼻もビラミツドとなり、恋(こひ)もあやしき三角(さんかく)のピラミツドとなる。
「ブルータス、汝もか!」と、五十三のシイザーは名科白(めいせりふ)をのこし、身に二十三の創(きず)をうけて死(し)んだ。アントニウスは四十三が最後。誠(まこと)、恋(こひ)に死なぬ老やはある。無情、彼女は三角形の無花果の葉より三角な毒蛇(どくじや)の頭をつまみとり、その三角形(さんかくけい)の乳房を嚙ました。
紀元前(きげんぜん)三十年。三十八の彼女の死(し)は、これらのお噺(はなし)を終りにする。
挨及の月(つき)は三角(さんかく)、そして、ナイルのデルタも三角。ビラミツドも三角であつた。歴史(れきし)、伝説(でんせつ)に「三」の字(じ)が多いとか、これも亦(また)その例にもれざることこそめでたし。
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((むらさき)昭和12年12月号 昭和12(1937)年12月発行)
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