神の饗宴 イワン・ツルゲーネフ
神の饗宴
ある時のこと、神が瑠璃色の宮殿に大饗宴を催さむものと思し召された。
あらゆる美德が客として招ぜられた。ただ女性の美德ばかりであつた……。男性の方は招かれなかつた……。ただ婦人ばかりであつた。
大きな德、小さな德――かなり多くの德が寄り集まつた。小さな德は、大きな德よりも一しほ快よく、いとほしかつた。けれど、誰もが滿足げであつた――互ひに身寄りか知り合ででもあるかのやうに打ちとけて語り合つてゐた。
ところが神樣は、お互ひに全く知合つてゐないらしい美しい二人の婦人にお目どまりあらせられた。
主(あるじ)は一人の婦人の手をとつて、もう一人の婦人の方へと引きよせた。
「恩惠!」と最初の婦人を指して、主人(あるじ)は申された。
「感謝!」とやがて次の婦人を指して、附け加へられた。
二人の美德はいひやうもないほどに驚いた。開闢以來、すでに久しいことではあるが、――この二人はここに初めて出會つたのであつた。
一八七八年十二月