13000アクセス記念テクスト ツルゲーネフ作・中山省三郎訳「クラシーワヤ・メーチャのカシヤン」(「猟人日記」より)
ブログ130000アクセス記念として、Иван Сергеевич Тургенев“Касьян с Красивой мечи”ツルゲーネフ作・中山省三郎訳「クラシーワヤ・カーチャのカシヤン」(「猟人日記」より)を正字正仮名で「心朽窩 新館」に公開した。
この作品は近づいてくる野辺の送りの悲泣の声々、そして焼き切れる車軸の臭いに始まって、佯狂の聖者カシアンと主人公が辿りながら語る、あのマグリットの「署名された白紙」のような不思議な感覚の中での森の匂いが、僕には確かに分かるのだ、その立ち込める森の「気」が――そうして無垢なるアンヌゥシカの若々しい素肌の匂いが、その笑顔とともに流れて来る、採れたての何とも言いようのないあの茸の香りと一緒に。エンディングは夕暮れの大気の匂い、そして再びしかし今度は生木の焼けた軸の独特の臭いで閉じられるのである――
カシヤンは「あかい花」の生を賭して世界を守った主人公であり、はたまたゴーリキーの「どん底」の巡礼ルカであり、そうしてまた、フェリーニの「道」のリチャード・ベースハート扮する『キ印』にも、黒澤の「デルス:ウザーラ」のデルスにもなり、遂にはタルコフスキイの「ストーカー」の主人公に、「ノスタルジア」のドメニコに、最後に「サクリファイス」のアレクサンデルにも蘇ったのである――
それは永遠に再生し我等を救うための奇蹟の精神、ロシア生まれのイエス・キリストである――このロシアの深奥な森、それに負けぬロシアの人々の心の、その精神の底知れぬ神秘的な奥深さを、僕は驚懼の内にも、感じずにはいられないのである――
彼を誰に演じさせるか? これを演じ切れる役者を僕はたった一人しか知らない。アレクセイ・パターロフ監督によるゴーゴリの「外套」で主人公パシュマーチンを、タルコフスキイの「アンドレイ・ルブリョフ」で重要な役どころの旅芸人を演じたРолан Быков(Rolan Bykov ロラン・ブイコフ)その人以外には僕は考えられない(1998年に既に亡くなっていることを上記サイトで知った。心より哀悼の意を表したい。このページが文字化けする場合はエンコードでキリル言語(Windows)を選択されたい)――いや、彼で「クラシーワヤ・メーチャのカシヤン」を撮ったら……と考えた時、僕には確かにその1シーン、1シーンのロランの演技が表情が、既に撮られたもののように「見える」のである――
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