私はあはれむ イワン・ツルゲーネフ
私はあはれむ
私はあはれむ、自分自身を、他人を、あらゆる人々を、獸を、鳥を……生きとし生けるものを。
私はあはれむ、いわけなきものを、年老いしものたちを、幸(さち)うすきものを、惠まれしものを……幸うすきものにもまして、惠まれしものを。
私はあはれむ、勝ち誇れる首領を、偉大なる藝術家を、思想家を、詩人(うたびと)を。
私はあはれむ、人殺しを、その犠牲(いけにへ)を、醜なるもの、美なるもの、抑壓さるるもの、抑壓するものを。
私はどうしてこのあはれみを逃れたらよいのか? あはれみゆゑに私は生きた空もないのだ……。あはれみよ、また更に憂鬱よ。
ああ、憂鬱よ、あはれみをまじへた憂鬱よ! これにまさる苦しみがどこにあらう。
もはや私は羨んだ方がましであらう、たしかに! そこで私は石を羨む。
一八七八年二月