爬蟲 イワン・ツルゲーネフ
爬蟲
私は身を斬られた爬蟲を見た。血漿と自身の排泄物の粘液とを浴びて、かれは猶ほ身をくねらせ、わなわなとふるへながら鎌首をもたげては舌を出してゐた、……かれはなほ脅かした、……力なく脅かしてゐた。
私は侮辱された三文文士の雜文を讀んだ。
自身の垂涎に咽び、自身の醜惡な膿汁のなかに抛り出されてゐる彼もまた、身をすくめ、身をくねらせてゐた、……彼は正當防衛をしてみせると言ひ立てた。彼は血鬪によつて、自己の名譽を! 名譽を恢復してみせると申し出たのである。
私はけがらはしい舌を出してゐるあの斬られた爬蟲を思ひ出した。
一八七八年五月