雙生児 イワン・ツルゲーネフ
雙生児
私は雙生児(ふたご)の口論してゐるのを見た。二人は顏の輪郭といひ、東表情といひ、髮の色合といひ、身の丈といひ、軀(からだ)つきといひ、全く瓜二つであつた。彼らは互ひに憎しみあつてゐた。
彼らはひとしく憤怒(ふんぬ)に齒をくひしばつてゐた。間近につき合はした、奇妙なほどよく似た顏はひとしく憤怒に燃えてゐた。
よく似た眼を共にかがやかし、眼にただ事ならぬ樣子を偲ばせてゐた。聲色(こわいろ)の同じ罵言(ののしり)の言葉は、同じようにゆがめた脣から洩れて來た。私は見るに忍びなかつたので、一人の手をとつて鏡の前に連れて行き、かういつてやつた、「もうこの鏡の前で罵倒した方がましなやうだぜ、……君には別に變りはなからうから、……ところが僕はさうなりや氣が樂になるんだ……」
一八七八年二月