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2008/11/02

留れ! イワン・ツルゲーネフ

 留れ!

 留れ! いま私が御身を見るままに、永久に私の記憶にとどまるがよい。
 脣から最後の感激の聲は離れ去つた、――眼は耀きもせず、閃きもしない、――眼は幸福の重荷、あの御身が表はすことのできた美しさ、御身の勝ち誇つた手、疲れはてれた手を、その方へ差しのべてゐるかとも思はれたその美しさに惠まれた意識の重荷を負はされて陰(くも)つてゐる!
 何といふ光が、太陽の光よりも淡く、清らかに、御身のからだの隅々に、御身の着物の極めて小さな襞にまで注がれてゐたのであらう。
 いかなる神がおまへの亂れた捲髮に、愛撫の息を吹きかけて、なびかせたことであらう?
 神の接吻(くちづけ)は御身の大理石(なめいし)のやうに蒼ざめはてた額に今も燃えてゐる!
 これこそ、――暴かれたる祕密、詩歌の、人生の、戀愛の祕密である! これが、これが即ち不死そのものである! これを外にして不死なるものはあり得ない、またあるを要しない。この瞬間において、御身は不死のものである。
 この瞬間は過ぎて行くであらう、――さうして御身はまた一塊(くれ)の灰、一人の女性(をんな)、一人の子供となつてしまふ、――しかも、それが御身にとつて何であらう!――この瞬間に御身は一切を超越したのである、あらゆる流轉するもの、無常なるものを離れてしまつたのである――この御身の瞬間は永遠にきはまりないであらう。
 留れ! さうして私をも御身の不死にあづからしめよ、私の魂のうちに御身の永遠そのものの反射をおとしてくれ!
   一八七九年十一月

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