二月失題 尾形亀之助
Ⅰ
風が吹いて寒い夜である
夕飯に塩煎餅のやうな肉を喰べた
床の中で牛乳を飲んだ
電燈に煙草けむりがからまる
柴戸に風が鳴つて
眠れずに子供が泣いてゐる
Ⅱ
風の中のポンプのモーターの軋りが私の人生であるのなら
私は頭まで蒲団にもぐつて寝やう
電燈をま暗に消さう
天井の鼠と床を列らべて
私も蕪青を一口齧つて眼をつむらう
停車場のプラツトホームに草花の種を蒔いて
電車の電燈をすつかり消してしまつて乗つてゐやう
Ⅲ
表の通りを自動車が通つて行つた
夜は黒く むりに眼をつむれば淋しい
私ら四人の家族は笑ひ顔一つせずに一日を暮らしてしまつてゐる
×
私は寒いので便所へ行かずにゐる
そして 床の中でおならを一つした
*
(詩神第三巻第三号 昭和2(1927)年3月発行)

