無題 尾形亀之助
空
電柱と
尖つた屋根
灰色の家
路
新しいむぎわら帽子と
石の上に座るこじき
たそがれ時の
赤い火事
大きい眼で
私はそこから詩をぬすんだ
*
(玄土第三巻第八号 大正11(1922)年8月発行)
[やぶちゃん注:傍点「ヽ」は下線に代えた。底本には標題の下に『〔「小石川の風景詩」異稿〕』とある。これは大正14(1925)年11月発行の第一詩集『色ガラスの街』の「小石川風景詩」を指す。そこでは
小石川の風景詩
空
電柱と
尖つた屋根と
灰色の家
路
新しいむぎわら帽子と
石の上に座る乞食
たそがれどきの
赤い火事
となり、表記以外に最終連が完全に削除されるという大胆な変更が加えられている。]