さびしい路 尾形亀之助
白い路
お前は
両側を短いほこりだらけの雑草狹さまれ
むくむくと
白い頭を寂しそうにもち上げてゐる
お前は
だらだらとただせばまつてゆくばかりだ
そして
雑草の原つぱの中に
潜つてゆくようになくなつてしもふ
今
お前のものとしてあるのは
よほど永く病んだ女が
遠くの方で
窓から首を出してゐる。
*
(玄土第三巻第十号 大正11(1922)年10月発行)
[やぶちゃん注:「狹さまれ」は「挟さまれ」の誤字である(以下「白い路」参照)。「寂しそうに」「潜つてゆくように」「しもふ」はママ。底本には標題の下に『〔「白い路」異稿〕』とある。これは大正14(1925)年11月発行の第一詩集『色ガラスの街』の「白い路」を指す。そこでは
白い路
(或る久しく病める女のために私はうつむきに歩いてゐる)
両側を埃だらけの雑草に挟さまれて
むくむくと白い頭をさびしさうにあげて
原つぱに潜ぐるやうになくなつてゐる路
今 お前のものとして残つてゐるのは
よほど永く病んだ女が
遠くの方で窓から首を出してゐる
とある。前篇以上に、内在律とシークエンス数が極限にまで切り詰められている印象が強烈である。白い路と女の異様に白く細い首が美事にクロース・アップしてくるのである。]