青柿の秋 尾形亀之助
隣りから来てゐる枝から青柿一つ盗む秋晴れ。
柿渋く空青く、下駄をかなぐり捨てて縁にのぼる。
飲んだ払ひが月末にこんなになつてゐた
「175円」
私は子供の頃
「999999………」と書きならべて「円」をつけた
ことを覚えてゐる そして
「9999……」に「一」をたすと「10000……」となる異様な変化に驚きもし何んとも言へない不足さへ感じて
「989898」とした苦心はどうだ
この「1・2・3」の組合せ玩具奴
そんなことは嘘だろ
*
(詩文学創刊号 大正15(1926)年12月発行)
[やぶちゃん注:題名の後のエピグラフは底本では、改行をせず、連続して書かれていて全体が八字下げであるが、ブラウザの関係上、改行して4字下げの二行とした。]
*
僕はこの、敷石にぶつかる下駄の音が聞こえて、柿の苦く渋い味が口に広がるような、新聞のチラシの裏に数字を書いている僕の姿を思い出す、そうして僕のいつもの独り言が聞こえるのだ――「そんなことは嘘だろ」――そんなこの詩を、その標題からエピグラフから終行からどこもかしこも残るくまなくまんべんなく愛撫したい気になってくるのである――
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ではそろそろ山の仕度にとりかかることと致そう
随分、ごきげんよう――

