さびしい夕焼の饗応 尾形亀之助
僕は君に何の饗応もないのですつかり困つてゐる
僕がさつきから口をつむつてしまつたのはそのためだ
部屋にこもつた煙草の煙を君が嚙んでゐるやうに見える
夕陽が落ちるのを待つて僕達は其処へ出かけやう
そうすれば君も煙草ばかり吸つて黙り込んでゐるのをやめて
「大変なご馳走だ――」と君は驚きながらそれを喰べるだらう
僕は君の喰べるのを見てゐるだけでいい
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(〈亜〉25号 大正15(1926)年11月発行)
[やぶちゃん注:「そうすれば君も」の「そう」はママ。]