カフエーの一ところ 尾形亀之助
カフエーのすみに
何時も忘れられてゐるような白いテーブルと椅子がある
どんなに人がこんでも
そのテーブルはいつも空いてゐた
今度いつたらそこに座つてみようと思ひながら
ついぞ座つたことがない
淋しい みたされることのないようなテーブルだ
久しく人のけに接しない
全たく人と交渉のない
影のようなテーブルだ
白い しかしそこばかりは
うす暗い壁について
いつも黙りこんでゐる。
*
(玄土第三巻第十号 大正11(1922)年10月発行)
[やぶちゃん注:二箇所の「ような」はママ。]