蜜柑 尾形亀之助
蜜柑がすつぱいので
蒲団の中へ手を入れてしまつた
あごをうづめて体をかたくすると寒い
眼をあけておとなしくしてゐると
あまやかしさいつぱいになった
(手を出すと冷めたいぞ)
泣くと蒲団の掛ゑりがしよつぱくなるのだ
蒲団の中で 私は
何時までも親父に叱られてゐる子供になつてゐた
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(〈亜〉27号 昭和2(1927)年1月発行)
[やぶちゃん注:「あまやかしさいつぱいになった」の「あまやかしさ」及び「なった」の拗音はママ。]
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僕は、例えば、この尾形の詩に何も感じないか、痛恨のノスタルジアを感じるか(それはオール・オア・ナッシングである)で、人は宿命的に、永遠に分けられてしまうような気がする――