POWER 尾形亀之助 注追加
「尾形亀之助拾遺詩集」冒頭の「POWER」に本篇のペンネームに纏わる注を追加した。
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POWER
日向葵草
お前の黄色の花びらは散つた
それからは
お前は首をうなだれた
さびしいのか
お前が持つてゐるよ
黒くなりかけたお前の種に
いまにわかる
花びらばかりでなく
お前も……
…………
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(FUMIE〈踏絵〉第二輯 大正8(1919)年3月発行)
[やぶちゃん注:『FUMIE〈踏絵〉』は同年二月に在学していた私立東北学院中学の学友らと創刊した短歌雑誌である。時に尾形亀之助十八歳、これは現存する彼の最初期の詩作品ということになる。但し、秋元潔1979年冬樹社刊の「評伝 尾形亀之助」によれば、底本でのこの詩の作者は「ジイノオブ」とあり、このペンネームが尾形亀之助のものであるという実証は成されていないが、『たぶん亀之助の筆名なのだろう』とされている(最初の同定者としては藤一也・村主さだ子氏両名の名を掲げている)。それに続いて、氏は同誌掲載の短歌三首を掲載し、その中に「しのぶ優たろ」なる歌人がいるが、『しのぶの濁音はじのぶ、少し訛るとじぃのぉぶ=ジイノオブである』として、ジイノオブとしのぶ優たろは同一人物ではないか、なれば、『ジイノオブが尾形亀之助ならば、しのぶ優たろは尾形亀之助になる』と記されている。参考までにその短歌三首を以下に掲げる。
ああ戀の惡人のいとしき物語り戀の惡人の悲しき物語り
我が戀ふと君は知らずともああ我は君を慕ひて泣かまし泣かまし
ほこりもすてて從順に君が前にわがやるせない戀をひざまづかん
以下、この「しのぶ優たろ」のペンネームは、この人物が関係を持った当時の仙台の娼妓の源氏名であろうとし、実在のモデル候補五人をマニアックに追跡されてもいる。ただ、この恋の歌の直情性は亀之助らしからぬ、しかしこういう歌を彼が作らなかったとも言えぬと続け、『しのぶ優たろは亀之助でないのかもしれない』、この二つのペンネームのことは『踏絵をめぐる謎として留保しておく』とあるのである。しかし、秋元氏は底本全集の一人編者でもあるのであるが、ご覧のように詩「POWER」は本文に掲げながら、この短歌三首は全集に所載していない(拾遺や解説にも記載なし)。私は秋元氏の興味深い推理を面白く思うし、この短歌の作者が亀之助である可能性を大いに感ずる者でもあるので、暫く注として掲げておきたい。「日向葵」はママ。]