口笛の結婚マーチ (シナリオ)――「人生興奮」その三として―― 尾形亀之助
彼 ・二十六の男(彼女の恋人)
彼女・二十一の女(彼の恋人)
A子・彼等の友達(やがて彼の恋人になる女)
B ・同じ (やがて彼女の恋人になる男)
其他 C。D。E。F子。G子。H子。街の人々――
× × ×
「口笛の結婚マーチ」の内容(演技をもふくむ)は喜劇ではない。しかし、われわれはここに軽い喜劇風のものとして見ることが出来る。
彼等は唯若い男若い女であつて、学生又はゼントルマン(?)又は淑女であることが主意ではない。象徴されてゐる若い男女である。
主たる演技者の体軀や顔などが、男は男、女は女で見間違ふほど似てゐてもよいし、又全くまちまちであつてもよい。たゞ、背の高い者と低い者、痩せた者と肥つた者が対象的に存在してゐない。同じやうに悧巧な者と馬鹿な者が対象的に存在してゐない。
このシナリオの演技者が皆裸体であることが一番面白いかも知れない。だが実際には不幸(?)にもそれは望めない。で、せめて演技者は裸でやつてゐる心持を忘れないで欲しい。
不自然な動作は一際禁ずる。(こゝでは、大胆な動作は決して不自然をともなはない)例へば、眼鏡をだてにかけてゐるときはいかにもだてにかけてゐることになればよいのである。又キザであるものはキザであつて、一つの役をつとめてゐるし、又不幸(?)にして全部の演技者がキザであつても、このシナリオの目的は達せられてゐる。
唯、演技者はこのシナリオが全部を通じてのユーモア(例へば)を主としてゐるために、部分的個人的に自発的に滑稽なそぶりなどをしても、たいして効果がないことを知つてゐなければならない。
[やぶちゃん注:ト書き冒頭の「しかし、われわれはここに軽い喜劇風のものとして見ることが出来る」の部分は文章の呼応がおかしいがママである。また、「一際」及び一箇所「キザ」の傍点脱落もママである。]
――以上の或部分は、役割のない登場人物だけのタイトルの後に補助
タイトルとなり、この後に役割のついたタイトルがもう一度出る。
[やぶちゃん注:上記ダッシュ以下の二行は、底本ではポイント落ち。ブラウザの不具合を考えて、私が適当な部分で改行した。]
× ×
*伴奏曲は口笛の如き楽器を主とせる低調の「結婚マーチ」。伴奏は
終るまで休みなくつづく。
*光線は、注意あるとき以外はあまり明る過ぎないこと。外景なども
明るい曇天といつた調子でありたい。
*テンポはゆつくり。タイトルは活字体。
[やぶちゃん注:上記「*」附きの注意書き三項目は、底本ではポイント落ち。底本では二行に亙っていないが、ブラウザの不具合を考えて、私が適当な部分で改行した。]
×
[やぶちゃん注:以下、底本では各シークエンスの▲のトップの下にト書きが続き、それが二行以上に及ぶ場合、すべて一字下げとなっているが、ブラウザの関係上、▲の直後に改行し、一字下げは行わなかった。また、底本では▲と▲の間は連続しているが、読み易さを考え、一行空けとしてある。他にも、シークエンスの変換箇所(囲み文字)の前後及び独立性の強いト書き(以下に述べる※部分)は原則、一行空けを行った。また、ト書きの一部(※:だいたいダッシュで前後を挟まれた撮影指示等の部分)はポイント落ちになっているが、そもそもこのシナリオはシナリオ本文とそうした補助説明部分が判然と書き分けられているとは言えないので無視して同ポイントとした。]
▲
立樹、林、畑などのある野の朝。
人物は一人もゐない。明るいが輝やかしくない。――この風景は枝にとまつてゐる四五匹の雀になる。そして次第にうすれて次の場面と二重写しになり、次の場面次第にはつきりとする。
彼 女
▲
彼女は化粧台(洋式)の前から立ちあがるところである。彼女の部屋は離れのやうな日本間。部屋の前の庭は、大きい庭の一隅であるらしい。壁には外国女優の写真が二三枚ピンでとめてある。美しい窓がけ、床の間の盛り花、椽近くテー・テーブル、椅子、長いソフアー等。しかしあつさりしてゐる。
[やぶちゃん注:テー・テーブルは「ティー・テーブル」のこと。]
化粧台の上にもむやみに化粧品がのつてゐない。化粧台の上に壁に若きゲエテの写真版が額になつてゐる。小いさな電灯スタンド。天井から部屋のまん中に電灯の花がさ。
▲
彼女は立ちあがりかけてちよつとゲエテの額に見とれる。そして、すばやく眼の下へ(自分の)黒子を画き入れる。間。その下へつゞけてもう二つ黒子を入れる。そして、自分でも少し可笑しくなる。
彼女はその朝かくして「泣き出しそうな顔」を発明(?)した。
▲
彼女化粧台の引出しから綺麗な画帖やうのものを取り出す。それには「私の化粧日記」と書かれてある。
▲
彼女は新しい頁を開いて、
No.37. ……泣き出しさうな顔……(但し自分一人のときの退屈なとき。勿論室内専用)――と書き込む。そして、顔を画き眼の下へ三つま直ぐに黒子を画く。(画は丸の中に簡単に眼鼻を画くだけのこと)その頁大写になる。
▲
彼女画帖を持つてテー・テーブルのところへ行き、置いてあつた紅茶をついで飲みながら画帖を開く。
No.21. ……緑の黒子……(洋服、ダンス専用)エメラルドのやゝ大きい黒子を額のまん中に入れる。口紅は黄味をおびた海老茶。耳たぶうす青く、靴は濃青色ビロード。
No.17. ……接吻……(小いさな夜会用)黒の細い線で唇へ渦巻く。
No.11. …………
▲
彼女画帖を間じる。
庭に蝶が二匹飛んでゐる。(レンズ蝶を追ふ)蝶花にとまる。
[やぶちゃん注:「間」はママ。「閉」の誤植であろう。]
▲
彼女ふと黒子に気がついて化粧台へ行つていそいで消す 画帖をしまふ。
[やぶちゃん注:「消す」の後の空欄はママ。]
彼
▲
彼の書斎兼寝室(部屋は大きくない。そして潚洒ではない)
[やぶちゃん注:「潚」は「瀟洒」の「瀟」と同義字で誤りとは言えない。]
▲
彼は寝台に寝てゐる。
枕もとの小いさいテーブルの灰皿から煙草の煙りがのぼつてゐる。新聞がひろげられて床のすそに落ちてゐる。彼はもう眼がさめてゐるが、床の中に埋づまつてゐる。
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彼そろそろ床の上に半身を起す。簡単な寝巻を着てゐる。髪はくしやくしやになつてゐる。
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窓のところに机、机の上に花と本。本箱の上に泥人形の猿。部屋の中央の円いテーブルに一通の手紙(封が切つてある。もう一度彼が見たものである)があり、大きな電灯スタンドが置いてある。
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庭に面した窓にカーテンが引いてある。が、窓が開いてゐるので、カーテンが少しばかりゆれたり、ふくらんだりする。
▲
彼はぼんやりとカーテンを見てゐる。
カーテンが女のスカアトのすそになる。そして、すぐ又もとのカーテンにかへる。彼変んな顔をする。
[やぶちゃん注:「変んな」はママ。]
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彼煙草をくはへて床から降りる。彼の寝巻のずぼんは長くだぶだぶしてゐる。
彼カーテンをあけると、二十坪ほどの少しばかり文化的の庭が現れる。
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彼まるいテーブルから手紙を取つて、窓の椅子(木製の安楽椅子がよい)にかける。彼手紙を見る。
私は消えてなくなります
私への感情をお捨て下さい
彼女より
彼 へ
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彼はその手紙を持つたまゝベツトに入る。そして、頭から蒲団をかぶる。(溶暗)
――この際彼は淋しい顔はする。しかし、映画的な表情はしない――
彼の見た夢
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ま暗(ま黒)の中に彼だけがはつきり浮き出してゐる。彼は正面を向いて静止してゐる。
――と突然A子が彼の右に現れて彼の手を握つてゐる。
▲
A子は彼の唇を求める。(A子の顔に表情がない)
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彼はA子の方へ体を向けて唇をあたへやうとするが、彼は彼の背後を気にする。ふりむいて見ても後ろには何もゐない。が、彼が見てゐるうちにぼんやりと彼女が少しづつはつきりと現れる。
――同時にA子次第にうすれて消えて、そこはもとどほりま暗(ま黒)になる。
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彼は彼女の方へ顔を向けたまゝ、手は無意識にA子の手を探す。彼のその手には何時の間にか一輪の薔薇が握らされてゐる。
▲
彼女静かに微笑する。
▲
彼と彼女の真面目な接吻。
――以上六つのシーンは非常にゆつくりしたテンポ――
接吻をしてゐる問に背景が彼の部屋になり、彼と彼女は彼の部屋の前の庭に立つて窓にもたれてゐる。
▲
庭に花が咲いてゐる。
▲
彼と彼女は無言のまゝ動きもしないでゐる。
▲
蝶。
蝶が左手より右ヘスクリンを横切つて飛ぶ。
――以上は全く無言のうちに終る。そして、芝居の引幕のやうに蝶を追つて次のシーンが左手より現れる。
[やぶちゃん注:所謂、ワイプのことを言っている。]
▲
彼と彼女は街を散歩してゐる。
――が、シヨーウヰンドーのガラスにうつる影は、彼ではなくBと彼女である。
▲
やがて、彼はそれに気がつく。と、Bだけを残して彼女の影が消え、Bは彼に変る。
▲
彼何か言はふとしてふりむくと、今まで彼と一緒にゐた彼女はゐなくなつてゐる。
[やぶちゃん注:「言はふ」はママ。]
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彼とぼとぼとカフエーに入る。
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カフエーの中には、B、C、D、E、彼女、A子、F子、G子、H子がゐて、にぎやかにさわいでゐる。
▲
それを見て彼はつとする。
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A子は彼の入つて来たのを見つけると、いきなり走り寄つて彼に接吻する。
彼驚く。
▲
彼等喝采する。
その中に一緒になつて彼女が喝采してゐる。
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彼はそれを彼女になじる。
彼女は彼の言ふことに相手にならずに、尚も平然と一緒になつて彼をからかふ。
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外の客もふりむいて喝采してゐる。そして、その中の一人はテーブルの花をぬいていやに儀式的に彼に捧げる。彼は花を握らされる。
▲
彼等は乾盃などをしてゐる。
――騒然たるうちに溶解。そして次へダブル――
[やぶちゃん注:「溶解」は「溶暗」又は「溶明」のことであろうが、これは次の「ダブル」という指示と連動して、このシーンと次のシーンのディゾルブ(オーバー・ラップ)のことを言っているものと思われる。]
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彼一人カフエーのテーブルに凭れて洋酒を飲んでゐる。
――彼の全身とテーブル全部の大写し。他に何もないこと――
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女給が何か食物を彼のテーブルへ持つて来る。そして、エプロンを取つて彼のわきにかける。
よく見ると、その女給はA子である。だが彼はおやと思つたゞけであつて、ひどくびつくりはしない。
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A子しきりに彼に媚る。
――カメラ後退する。と――
彼のテーブルの隣りにBがゐる。
彼と同じやうにB洋酒を飲んでゐると、何か食物を運んで来た彼女がエプロンを取つてBのわきにかける。そしてBにしきりに媚びてゐる。
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彼はそれを見てゐて実に無かん心の態である。
まるでBとは友達でも何んでもないやうに、そして彼女は見知らぬ女でゝもあるかのやうに――
[やぶちゃん注:「無かん心」はママ。この二行目のダッシュは、このシナリオ内では、きわめて異例の用法である。]
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彼の眼がそこを離れる。
――と、同時にカメラ前進して以前の位置にかへる――
A子彼の体に寄りかゝつてゐる。
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彼眼をつむつてA子に接吻する。
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A子テーブルの花を折つて彼の胸にさす。
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彼煙草に火をつけやうとしてマッチをテーブルの下へ落す。
彼マッチを拾はふとしてこゞんだ拍子に、彼はダブツて一匹の犬になる。
[やぶちゃん注:「拾はふ」はママ。]
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犬になつた彼はそのまゝうなだれてカフエーを出て行く。(犬はあまり立派な犬でないこと)
――彼が犬になつた後はA子やBや彼女を写さずに、カメラはカフエーを出て行く犬を追つて客の足もとやテーブル椅子の下部のみを写す。
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うす暗くなつたまゝ(溶暗を途中で止めてゐる)犬の出て行つた後のカフエーの入口から見た街路。――(間)――ひきかへして来て、カフエーの前を通る犬。(溶暗)
Bの部屋では
――(前の「彼の夢」と混同せぬこと)――
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Bはアパートメントに住んでゐる。
犬を一匹飼つてゐる。(この犬は、犬になつた彼の犬を使つてよい)
窓は電車通りに面して街がいつぱいに見える。窓近く一輪さしに花一本。花のそばにステツキが立てかけてある其他、蓄音器、本少々、ベルモツト一瓶とコツプ。寝台椅子、小テーブル等。
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Bは地のうすい部屋着のコートを着て、頭が三分の一も入らない変てこな帽子をかぶつて、煙草をのみながら手紙のやうなものを書いてゐる。
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Cが帽子をかぶつたまゝドアーの鏡でネクタイを結んでゐる。
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時計五時を指してゐる。
しかし、街は昼である。
――カメラ後退すると――それは壁にはりつけた外国の時計会社のポスターである。
部屋の中しばし安閑。
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突然、DとF子がドアーをあけて部屋に入つて来る。
Cあやうくドアーにぶつかりさうになる。
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F子部屋に入つてちよつと頭を下げたゞけ、そして、Bの後からBの頭をつゝいて窓のところへ行つて街を見る。
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Dは先づ犬と握手。それからCと握手。それからBのところへ行つてのぞく。
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Bはこのとき初めて顔を上げる。そして書いたものを封筒に入れてポケツトに入れる。
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DはCのところへ行く。そして、お互にどうしたいといふ顔をする。
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BはF子の後から頭をおさへて、窓ガラスへF子の顔を押しつけるまねなどをする。
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(――と、) ペーブメントを歩いて来るA子。(ダブツて全身の大写)
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F子とBは窓からA子を見つける。
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D蓄音器をかけて、足で拍子をとりながらCの蝶結が中々うまく出来ないのを見て何か言つてゐる。
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A子はBのゐるアパートメントでない方へ曲らうとする(B、F子の背後よりベーブメントのA子)
[やぶちゃん注:このト書きはB及びF子の背後から彼らをなめて、窓のずっと彼方のA子が、Bのアパートメントとは違った方向へ曲がるシーンをワン・ショットで撮るという指定であろうが、所謂、後のヨーカン・レフのカメラででもない限り、こんなシーンは当時、綺麗に撮れなかったと思われる。]
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犬がCの足へお手をしてゐる。
Cうるさがる。D面白がる。
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Dふと、BとF子が窓から何か見てゐるのを見て、蓄音器を止めてBとFのそばへ行く。
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DがBの背後に着くと同時に、Bくるりとむきかへりその拍子をとるやうにDの胸をこぶしで軽く突く。F子Dの様子を見て笑ふ。
Bそのまゝいそいでドアーへ行き、ドアーを開けるついでにCのネクタイを引つぱつてほどく。
犬、Bにつゞく。
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Dけゞんさうな顔をして、F子と一緒にCを見て笑ふ。
DはF子に窓から何を見てゐたのか、何故Bが急いで出て行つたかを聞いてゐるらしく、Cもネクタイのほどけたまゝ窓のところへ行く。
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F子風見の風車を指さすと、DとCは何んのことかわからずに指さゝれたところから何か見つけようとしてゐる。
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F子の指はガラスについたまゝそこから出たらめに徐々に動く。
――カメラはF子の指先を追つて、指さされたもののみを写す。
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F子の指跡はガラスにうすく「A」の字を書いてゐる。DとCはそれに気が付かない。
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DとCは何が何んだかわからないまゝに、何だつまらないといふ顔をして、Cは鏡のところへDは頭をかゝひて寝台へ半身仰向に寝ころがる。
[やぶちゃん注:「かゝひて」はママ。]
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Cは又ネクタイを結びかけてゐる。と、ドアーの外に何か来てゐるらしい。Cドアーを開けると、犬が入つて来る。
C廊下へ首を出してみてひつこめる。そして、誰も来ないらしくドアーを閉る。
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F子笑ひながらCにネクタイを結んでやる。
Cはつとする。
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C疲れたやうにDのわきに腰かける。
▲
D起きあがる。
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CとD列らんで放心の態。それが又、F子には可笑しい犬はCとDに向ひ合つて腰を降ろしてゐる。
[やぶちゃん注:「可笑しい」の後に句点が脱落していると思われる。]
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F子又窓から外を見る。が、A子とBは見えず。
窓ガラスの「A」を見る。瞬間淋しい面ざし。
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A子とBゆつくり話しながら部屋に入つて来る、(A子がBの部屋に入ると同時に明るい感じになる)
A子は、今日はとてもよい天気だわ――といふやうな挨拶をする。
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CとD立ちあがる。
そして、F子に覚えてゐろ――といふやうな顔をする。
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F子それに答へず。A子へ手をさしのべて表情たつぷりの握手をする。
――(間)――
が、部屋の中には何も面白いことがなかつた。彼等つまらなくなる。そして、ぼんやりと白らける。それにひきかへて外はよい天気である。
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A子は何か思ひついたやうにF子にさゝやいて、部屋を出る。
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A子はアパートメントの電話室で微笑しながら電話で話してゐる。
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彼女電話でそれに答へて微笑してゐる。
――相互にくりかへして写さず。簡単に一度だけづつのこと。
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B外出の仕度をしてゐる。
▲
ぼんやりしてゐたCはブランデーの瓶のところへ行つて飲まふとしてゐるところへ、それを見てDも飲まふとして行く。が、コツプが一つしかない。
――Dが勢よくブランデーのところへ行つたのに、コツプが一つしかなかつたこと。Cはそんなことにかまはずゆつくり飲んだことなどが、この短い間に軽いユーモアーを作る。[やぶちゃん注:「飲まふ」及び「ユーモアー」はママ。]
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Bその間に仕度すむ。
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F子顔を直してゐる。
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電話室の外の廊下へ(アパートメントの玄関につづく)
F子、C、Dがぞろぞろ来かゝる。
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Bは部屋のドアーに鍵をしたりして後れて彼等につゞく。
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A子電話室より出て彼等と一緒になる。
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Bの部屋に犬が残されてゐる。
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彼等アパートメントを出る。
街
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デパートメントストアーのシヨーウヰンドー。
(a)……人物を入れないこと。
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同じく(b)……同上。
▲
同じく(c)……同上。
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帽子の大写し(スクリンいつぱいに)
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靴………………同上。
[やぶちゃん注:ここの「同上]は直前の『(スクリンいつぱいに)』を指すものと思われる。]
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宝石……………同上。
▲
街路の全景。
――銀座などではなく、外国のにぎやかなる街。一シーンだけ!(溶暗)
▲
自動車と電車。――同上。
[やぶちゃん注:ここの「同上]は直前の『銀座などではなく、外国のにぎやかなる街。一シーンだけ!(溶暗)』を指すものと思われる。]
――「街路の全景」「自動車と電車」は、幻灯式に「街路の全景」はこんざつせるままに停止してゐること、「自動車と電車」はその一部分として同様走つてゐるままに停止してゐる。[やぶちゃん注:「こんざつ」はママ。]
▲
はなやかなる紳士。(西洋人)
▲
はなやかなる淑女。(同上)(溶暗)
――は、多少滑稽味のある絵はがきの如きもの。同様幻灯式である。
映写されて、ちよいとの間をおいてそのわきに小いさく「はなやかなる紳士」「はなやかなる淑女」のタイトルが出る。この二つには簡単な飾りわくがつく――。
――華やかなる結婚マーチの中に――
END
*
(映画往来第三巻第四十号 昭和3(1928)年4月発行)
* *
これが尾形亀之助幻の『短編集』の掉尾を飾る作品である。但し、本作には文字囲みや枠があるが、HLMLが構文エラーを起こすため、ベタのテクストでブログに貼ってある。明日公開の『短編集』で、ちゃんとしたものをお読み頂きたい。
では、僕の51歳の最後の夜に――結婚マーチと共に――
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