「努力」するカツオ
画面右奥――夜の勉強部屋……カツオ、机の蛍光灯だけを点けて、白い鉢巻をし、眉を「へ」の字にして、カリカリと鉛筆を握って勉強している……頭上には半紙に墨書した「努力 磯野カツオ」……その情景は開いた襖から見えている……画面手前中央から左の襖のこちら――磯野家廊下……中央に波平、その後ろ左のフネ……波平、半ば口を開け丸く見開いた右目から感動の涙を流している、眉は「ノ」の字……フネ、同じように口を半ば開いて、同じ「ノ」の字の眉とその下の閉じた小さな右眼から波平以上に大粒の涙を流し、左手は手拭(見慣れた割烹着姿と思われからハンカチではあるまい)で反対側の眼のそれを拭おうとしている風情――
右手襖上「さあ、次は、そなえを固める親の番。」のキャッチ・フレーズ――
以下、画面下にバーンと「JA教育ローン」「とくとくプラン」
「固定金利型 標準金利」とあって特にでかく「2.35%」(年率)……以下、こまい字で注意事項その他よろしく……
――以上、昨日、2009年2月7日朝日新聞朝刊の「JAバンク」の広告を僕が解説した。
……僕が何を言いたいか、「サザエさん」ファンならお分かりであろう……
「サザエさん」のシチュエーションから言えば、このカツオのひたむきな勉学姿勢はモノホンではない――どうせ「見せかけ」の勉学である――そこには何かの下心が必ず隠されている――それが翌日には必ずや発覚する――いや、仮に一日の思いつきの素直な発奮であっても、カツオの性格から言って、切り替わった翌日の画面では、カツオは、鉛筆を握って居眠りをするか、教科書の下に漫画を潜ませているか、昼間なら中島と河原へ野球に行っている(このタッチはテレビ・アニメ版の方のセル画風であるから中島君は出現率の高い重要なキャラクターで続くシーンとしての可能性は極めて高い)――そうして、波平の「バカモン!!!」の、あの雷が落ちるのは日火を見るよりも明らかなのである……
『……お父さん、お母さん、「さあ、次は、そなえを固める親の番。」などとお考えになる前に、よく、お考えあれ……あなたの息子さんはこのカツオでは、ないですか?……』
――いや、待てよ? 僕は実は、カツオが大好きなのだ。そもそも原作でもそうだが、なかなかにカツオは「悪」知恵が働く(それは殆どが憎みきれない擬似性の「悪」でしかない)。カツオは磯野家の最高の知性と言ってもよい。だから、言い直しておこう――
『お父さん、お母さん、「さあ、次は、そなえを固める親の番。」とお考えになってよいのです……あなたの息子さんがカツオのように巧妙な悪知恵であなた方を一時感動させたとしても……親は騙されてこそのもの……親さえ騙すぐらいの知恵が働かなくては人を平然と蹴落として最高学府には参れません――』
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ちなみに僕はアニメ版「サザエさん」の誰が好きか、を告白しておこう。僕は断然、花沢さん、なのである――僕は昔から、ボーイッシュな女の子に、弱い――