無門關 四十五 他是阿誰
四十五 他是阿誰
東山演師祖曰、釋迦彌勒猶是他奴。且道、他是阿誰。
無門曰、若也見得他分曉、譬如十字街頭撞見親爺相似。更不須問別人道是與不是。
頌曰
他弓莫挽
他馬莫騎
他非莫辨
他事莫知
*
淵藪野狐禪師書き下し文:
四十五 他(かれ)は是れ阿誰(あた)ぞ
東山演師祖(しそ)曰く、
「釋迦・彌勒、猶ほ是れ他(かれ)の奴(ぬ)なり。且く道(い)へ、他は、是れ、阿誰ぞ。」と。
無門曰く、
「若し、他を見得して分曉(ぶんげう)ならば、譬(たと)ふれば、十字街頭に親爺を撞見するがごとくに相似たり。更に別人に問ふて是と不是とを道(い)ふを須ひず。」と。
頌して曰く、
他(かれ)の弓 挽くこと莫かれ
他の馬 騎すこと莫かれ
他の非 辨ずること莫かれ
他の事 知ること莫かれ
*
淵藪野狐禪師訳:
四十五 彼とは、一体、誰か!?
東山の五祖法演禅師が言う。
「釈迦如来や弥勒菩薩なんどと言うても、きゃつらは皆、まだ『彼』の奴隷に過ぎん。さあ、己(おのれ)ら! 言うてみよ! 『彼』とは、一体。誰か!?」
無門、商量して言う。
「若し『彼』を、はっきり見届け得たならば、譬えて言はば、十字路の、ごった返した街角で、てめえの親父(おやじ)にばったり出逢う、そんな機縁と変わりはない。どこのどいつが今更に、そいつが本当にこの俺の、親父かちゃうかと誰彼に、聞くはずないこと、確かなことじゃ!」
次いで囃して歌う。
彼の弓 それは引いてはいけない
彼の馬 それは乗ってはならない
彼の非 それは云々してはならない
彼の事 それは知ってはならない
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