無門關 四十四 芭蕉拄杖
四十四 芭蕉拄杖
芭蕉和尚示衆云、你有拄杖子、我與你拄杖子。你無拄杖子、我奪你拄杖子。
無門曰、扶過斷橋水、伴歸無月村、若喚作拄杖、入地獄如箭。
頌曰
諸方深與淺
都在掌握中
撐天并拄地
隨處振宗風
*
淵藪野狐禪師書き下し文:
四十四 芭蕉の拄杖(しゆぢやう)
芭蕉和尚、衆に示して云く、
「你(なんぢ)、拄杖子(しゆぢやうす)有らば、我你に拄杖子を與へん。你、拄杖子無くんば、我、你が拄杖子を奪はん。」
と。
無門曰く、
「斷橋の水を過ぐるを扶ける、無月の村に歸るに伴ふ、若し拄杖と作(な)して喚ばば、地獄に入ること、箭(や)のごとし。」
と。
頌して曰く、
諸方の深と淺と
都(すべ)ては掌握の中に在り
天を撐(ささ)へ并びに地を拄(ささ)ふ
隨處に宗風を振るふ
*
淵藪野狐禪師訳:
四十四 芭蕉の拄杖(しゅじょう)
芭蕉慧清和尚が、会衆に示して言う。
「お前が、『拄杖子(しゅじょうす:接心行脚の際の禅者の必携アイテム。)を持っている』とならば、私は、お前に拄杖子を与えよう。お前が、『拄杖子を持っていない』とならば、私は、お前の拄杖子を奪ってやる。」
無門、商量して言う。
「橋のない、川渡るとき、差し渡し、月のない、夜道の帰り、探るのを、もしも『拄杖』と呼んだらば、地獄に入ること、矢の如し。」
次いで囃して歌う。
芭蕉和尚の杖(つえ)挿し入れて 何処(いずこ)が淵か はたまた瀬か――
過(あやま)るな! その答えは 杖を握っている その掌中にこそ在る――
天空を グイと差し上げるかと 思うやいなや 大地をドンと支えもする――
乾坤随所 神出鬼没 脅威自在に振るう杖! たかが杖!――されど杖!――