今朝、ヨハネ、目醒める
今朝、先程、目覚める直前――
僕の聞こえが悪くなった、通奏低音の耳鳴りがする左耳に――
確かに鮮やかなバッハの「ヨハネ受難曲」序曲のヴァイオリン主旋律が聴こえたのだった――
それにはっとして僕は眼を覚ましたのだったが――
布団の中で凝っと目を閉じたまま、周囲の音に聞き耳を立ててみた――
若い鶯の練習――さんざめく雀――遠い鴉――花粉症の妻の苦しそうな寝息……
耳に入る、その幻聴の元を探ってみたところが――
それは何のことはない――
僕自身の呼吸の立てる音なのであった――
……退屈で、不愉快で、理不尽極まりない、この人生にあって……僕は僕自身の中に、ヨハネを聴いたのであった――