無門關 四十三 首山竹篦
四十三 首山竹篦
首山和尚、拈竹篦示衆云、汝等諸人、若喚作竹篦則觸。不喚作竹篦則背。汝諸人、且道、喚作甚麼。
無門曰、喚作竹篦則觸。不喚作竹篦則背。不得有語、不得無語。速道、速道。
頌曰、
拈起竹篦
行殺活令
背觸交馳
佛祖乞命
*
淵藪野狐禪師書き下し文:
四十三 首山の竹篦(しつぺい)
首山和尚、竹篦を拈じて衆に示して云く、
「汝等諸人、若し竹篦と作(し)て喚ばば、則ち觸る。竹篦と作て喚ばざれば、則ち背く。汝諸人、且く道(い)へ、喚んで甚麼(なん)とか作(な)す。」
と。
無門曰く、
「竹篦と作(し)て喚ばば、則ち觸る。竹篦と作て喚ばざれば、則ち背く。語ること有るを得ず、語ること無きを得ず。速(すみや)かに道へ、速かに道へ。」
と。
頌して曰く、
竹篦を拈起して
殺活令(さつかつれい)を行ふ
背觸(はいそく) 交馳(かうち)して
佛祖も命を乞ふ
*
淵藪野狐禪師訳:
四十三 首山の竹篦(しっぺい)
首山和尚が、接心に用いる竹篦を、おもむろに指でつまみ上げて、会衆の者に示して言った。
「お前ら、もしこれを『竹篦』と呼んだなら、それは『もの』に附き過ぎる。しかし、『竹篦』と呼ばなければ、『名指す』ことに背く。さあ! お前ら! まさに答えよ! 何と呼ぶか!」
無門、商量して言う。
「もしこれを、『ちくひ』『ちくへい』、『しっぺい』『しっぺ』、まんまに呼ばば、物に執着、真実(まこと)の禁忌に抵触だ。されどこいつを『竹篦』と、呼ばないことにゃ、名指すに背く。呼んじゃいけねえ、呼んでもいけねえ――さあさ! 答えろ! 答えろ! 早ウ!」
次いで囃して歌う。
竹篦一本抓み出し
殺すの生かすのと アレ 御無体な!
背くことと執(つ)くことが グルになって 竹篦(しっぺ)を返す
お釈迦様でも命乞い!
[淵藪野狐禪師注:私はこの時、この会衆の中にウィトゲンシュタインが居て、黙ったまま進み出ると、あの少年のような笑顔を浮かべて、首山からこの竹篦を奪い取り、その場でクニャリと捻り上げ、メビウスの帯を作る、その姿が見えるのだ。]