昔の彼女の夢
長い髪の彼女はあの時のままに草木一本ない荒蕪地に佇んでいる
「あなたがいなくなってここもすっかり荒れ果ててしまいました」
と言いながらあの時と同じように手にした乗車券の数字を黙って眺めていた
――四則演算して「1」にするんです――
昔、彼女がそう言ったように……
……そうかリセットするんだね……
*
……甘く苦かった
――ツゥ!――
寝違えた首筋に痛みを覚えて僕は眼を醒ました
窓を開けていた
頭の上で裏山の森を抜けてゆく風の音が聞こえる……これは僕の山の音……
隣りの家の茶室の方から風鈴の音が聞こえる……少し残念なのは安っぽいガラス製の音……
もうこのまま起きていよう……そうして……そうして蜩の声(ね)を待っていよう……この左目のメダカと一緒に……
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