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2009/08/02

盗核という夢魔

先週、名古屋大学の山本義治「盗葉緑体により光合成する嚢舌目ウミウシ」(光合成研究 18 (2) 2008)を読み、大変、興味深く思ったことがある(私は同僚の生物教師が抜刷にしてくれた現物で読んだが、今日見たらネット上でもPDFファイルで読める)。

ここにはまず、緑色をしている囊舌目のウミウシ、クロミドリガイの近縁種であるElysia atroviridisを餌である緑藻ミルの一種Codium fragileと共に電子顕微鏡観察を行ったところ、本種のウミウシの細胞内に存在する共生体はラン藻ではなくミルの葉緑体と推定されたという記事が引用される。

これを「盗葉緑体」と呼称することとなった。

いや「盗む」のは葉緑体ばかりではない。

繊毛虫Mesodinium rubrum(又はMyrionecta rubraとも)の場合には核(及びその情報)も餌であるクリプト藻から盗むという現象が2006年に報告されている、というのである。

驚くべきことに前記のウミウシでは最長14ヶ月も盗んだ葉緑体を自身の体の中で維持し続け、そこから栄養を供給させているというのである。

その「3.どうやって葉緑体を取り込むのか?」で山本氏は、歯舌を用いて藻類の細胞に穴を穿ち、その細胞質を吸引するが、その際、『吸い取られた葉緑体は胃では消化されずに胃から繋がる中腸腺と呼ばれる消化吸収及び栄養輸送を担う網状組織に運ばれ、中腸腺の細胞内に取り込まれると言われている』とし、『取込みの過程については不明な点が多い。ちなみに、ウミウシの中には葉緑体とは別の物を「盗む」ものもいる。ミノウミウシ類(裸鰓目)の多くの種はイソギンチャクやヒドロ虫などが持つ刺胞(防御用の毒を蓄える膜構造物)を破裂させずそのままの形で中腸腺から刺胞囊細胞に運び、ウミウシの防御に役立てるという。』と記されている。

僕が以前「アオミノウミウシと僕は愛し逢っていたのだ」で書いた「盗刺胞」の問題だ。

私はここで、遅まきながら始めて「盗核」という現象を知った。
氏はこれらのウミウシが『藻類の核は取り込まれていないことはE. chroloticaを用いたサザン解析により確認されてはいるが、種によっては盗核が行われている可能性や、また何らかの形で藻類の核の情報がウミウシの細胞へ伝わっている可能性はあるかも知れない。』と述べておられる。

――そうか!? 盗核か!?

摂餌から中腸線から自己の背側部に至るまで、何ゆえにあの刺胞が射出されずにまんまとミノウミウシの武器となり得るのか――「僕はね、君を食べたウミウシじゃあ、ないんだ、僕は「君」だよ……という情報を盗み出した核情報を用いて、騙しているのではなかったか?

……面白いな……真夏の夜の夢は見果てない……

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