従来知られている尾形亀之助詩集『色ガラスの街』の「犬の影が私の心に寫つてゐる」の詩が正しい「犬の影が私の心に寫つてゐる」の詩である、という命題は偽である
犬の影が私の心に寫つてゐる
ヽヽ
明るいけれども 暮れ方のやうなもののただよつてゐる一本のたての路 ――
柳などが細々とうなだれて 遠くの空は蒼ざめたがらすのやうにさびしく
白い犬が一匹立ちすくんでゐる
おゝ これは砂糖のかたまりがぬるま湯の中でとけるやうに涙ぐましい
×
私は 雲の多い月夜の空をあはれなさけび聲を
あげて通る犬の群の影を見たことがある
[やぶちゃん注:ブラウザによって表記の不具合が生ずるかもしれない。傍点は「たて」の傍点である。最後の二行は有意にポイントが落ち、しかも意図的に二行に分かち書きしている。ところがこれは従来、全集を含め、次のように表記されてきている。
犬の影が私の心に寫つてゐる
ヽヽ
明るいけれども 暮れ方のやうなもののただよつてゐる一本のたての路 ――
柳などが細々とうなだれて 遠くの空は蒼ざめたがらすのやうにさびしく
白い犬が一匹立ちすくんでゐる
おゝ これは砂糖のかたまりがぬるま湯の中でとけるやうに涙ぐましい
×
私は 雲の多い月夜の空をあはれなさけび聲をあげて通る犬の群の影を見たことがある
これが尾形亀之助詩集『色ガラスの街』の「犬の影が私の心に寫つてゐる」の詩である、という命題は偽である。]
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