浅川マキへ
「不幸せ」という猫を抱いてお前は逝っちまったが……
それでお前の娼婦の年季は終わったなんて思うな!……
俺は4丁目で曖昧宿を開く……あの3丁目の先の、な……
お前には、まあだ、その老いさらばえた体で働いてもらわなきゃ、なんねえんだよ!……
娼館の名はとっくに決めてあるゼ……
朝日樓別館「裏窓」……
どうだい?……ちょいと気に入ってくれると思ってるんだ……
勿論、店開きにゃ……俺と田浩の二人……マキ! お前を千日買い上げするゼ!……
そこで俺は……お前に寝物語で教わった、あの「ケンタウロスの子守唄」をお前の耳元で唄ってやる……
……お前の歌、だ?……馬鹿言ってんじゃねえゼ!……俺が聴きてえのは勿論、「セント・ジェームズ医院」に決まってるじゃねえか!……南里さんもペットを磨いて待ってる!……
……マキ……お前は死んでも、な……俺の愛した……たった一人の娼婦、なんだ……
昔の話なんぞ、もうまっぴだ!――
*
浅川マキ――
僕の、おぞましい惨めな青春の、ババ・イアガ! 血塗られた美神!――
――僕はお前の……あの艶曲「グッド・バイ」を……今夜、エンドレスで聴く……そうして、お前の匂いたつ、ヴァギナに口づけして窒息する……
――
今は……静かな夜――
丁度……いい季節――
誰も……知らない……抜け道を――
急ぐあなたが……見える――
自分に……さえも……さよならした――
あなたの……背中が……行く――
もう……愛さないの――
闇を翔けるさすらいびと――
……闇を………
翔けるさすらいびと――
***
クソがっ!
好きな奴ばっかり、死にやがる!!!