アルフォンシーナと海――教え子の呉れた一枚に心臓を撃ち抜かれる
昨年末に、教え子が夫君と共に自選の数十枚のCDをプレゼントしてくれたのだが(ジョベルトの幻の一枚を探し出してやはりプレゼントして呉れた彼女と同じである)、その素晴らしいことを言葉で表現出来ないのが悔しい程である。その中でも、今、ハマっている(自室にいる際には、昨年度末よりこれがエンドレスで流れ、既に口笛で総ての曲を吹けるようになった)のが――
アルフォンシーナと海(ワーナーミュージック・ジャパンB00007GREH)
波多野睦美(mezzosoprano)とつのだたかし(g)のデュオ。つのだはつのだじろうの実弟にして、つのだ☆ひろの実兄である。
以下の☆の差は、歌唱や演奏の出来不出来ではなく、専ら曲自体に対する僕の好みの差と心得られてよい。
1 アルフォンシーナと海 (ラミレス) ☆☆☆☆☆
:オープニングの摑みとしては波田野・つのだ共に絶品。
2 天使の死 (ピアソラ) ☆☆☆☆☆
:ピアソラの名曲をつのだが美事に弾きこなしている。
3 オブリヴィオン―忘却― (ピアソラ) ☆☆☆☆☆
終曲近くの波多野の声の伸びが素晴らしい。死んだ天使が蘇る!
4 忘れる木 (ヒナステラ) ☆☆
5 ばらと柳 (グアスタビーノ) ☆☆☆
:共に好きなタイプの曲想ではあるが、何故か聴いていて少し飽きる感じがする。
6 プレリュード (ヴィラ=ロボス) ☆☆☆☆☆
:波多野のインターミッション。つのだのいぶし銀のソロ演奏。作曲者はブラジルのバッハだもの、悪いはずがない!
7 メロディア・センティメンタル (ヴィラ=ロボス) ☆☆☆☆☆★
:最初の一小節から、心臓をぎゅっと摑まれた!
8 向こうの教会へ (ラヴェル) ☆☆☆☆☆
:単調なリフレインの短い曲乍ら、波多野の木霊(!)が美しい。
9 サラバンド (プーランク) ☆☆☆
:つのだのソロ。
10 愛の小径 (プーランク) ☆☆☆☆☆
:文字通り、小径スキップするような感じが心地よい……若き日の愛の小径とは……この曲の如、斯く在るということを……遠い花火のように思わせてくれる曲……
11 屋根の上の空 (ヴォーン・ウィリアムズ) ☆☆
12 仔羊をさがして(ヴォーン・ウィリアムズ) ☆☆
13 リンデン・リー(ヴォーン・ウィリアムズ) ☆☆
:以上三曲、僕なら別な曲にする気がする。具体的には挙げにくいが、イングランド民謡風のヴォーン・ウィリアムズのこれらの曲を選ぶなら、アイルランドの民謡を三曲選びたい気がする。もしくは5曲総て武満。僕には明らかにこの英語圏の三曲のみが(但し、この三曲を単独で聴くならば、相応によく、決して退屈な曲ではないのだが)このアルバムでは異質に響くのである。
14 小さな空(武満徹) ☆☆☆☆☆★★★
:この歌詞!
この歌唱!
このギター!
この旋律!
……「いたずらが過ぎて」……子供の頃の、僕の孤独で淋しそうな後ろ姿が見えてくる……あの断崖を降りれずに夜道を帰ってゆく僕だ……しかし、その小さな僕の後姿は、それを思い出す一層淋しい未来の今の僕のもっと淋しい後姿へと変わってゆくのだ……僕は、涙なくしてこの曲を聴けない……
15 三月のうた(武満徹) ☆☆☆☆☆★★
:オープニングに呼応するエンディングの摑みの妙味!
……「私は愛だけを抱いてゆく」……の以下の部分のメロディ・ラインを聴くためにこそ、この曲は、否、この一枚はあるといってよい――。