生徒諸君に寄せる 宮澤賢治 又は 今日卒業する僕の君らへ
生徒諸君に寄せる 宮澤賢治
*
この四ケ年が
わたくしにどんなに樂しかつたか
わたくしは毎日を
鳥のやうに教室でうたつてくらした
誓つて云ふが
わたくしはこの仕事で
疲れをおぼえたことはない
*
(彼等はみんなわれらを去つた。
彼等にはよい遺傳と育ち
あらゆる設備と休養と
茲には汗と吹雪のひまの
歪んだ時間と粗野な手引があるだけだ
彼等は百の速力をもち
われらは十の力を有たぬ
何がわれらをこの暗みから救ふのか
あらゆる勞れと惱みを燃やせ
すべてのねがひの形を變へよ)
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新しい風のやうに爽やかな星雲のやうに
透明に愉快な明日は來る
諸君よ紺いろした北上山地のある稜は
速かにその形を變じやう
野原の草は俄かに丈を倍加しやう
あらたな樹木や花の群落が
あらたな樹木や花の群落が
あらたな樹木や花の群落が
あらたな樹木や花の群落が
あらたな樹木や花の群落が
あらたな樹木や花の群落が
*
諸君よ 紺いろの地平線が膨らみ高まるときに
諸君はその中に沒することを欲するか
じつに諸君は此の地平線に於ける
あらゆる形の山嶽でなければならぬ
*
サキノハカといふ黑い花といつしよに
革命がやがてやつて來る
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である、
諸君はこの時代に強ひられ率ひられて
奴隸のやうに忍從することを欲するか
むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ
宙宇は絶えずわれらに依つて變化する
潮風や風、
あらゆる自然の力を用ひ盡すことから一足進んで
諸君は新たな自然を形成するのに努めなばならぬ
*
新しい時代のコペルニクスよ
餘りに重苦しい重力の法則から
この銀河系を解き放て
新しい時代のダーヴヰンよ
更に東洋風靜觀のチヤレンジヤーに載って
銀河系空間の外にも至つて
更にも透明に深く正しい地史と
増訂された生物學をわれらに示せ
衝動のやうにさへ行われる
すべての農業勞働を
冷く透明な解析によつて
その藍いろの影といつしよに
舞踏の範圍にまで高めよ
素質ある諸君はただにこれらを刻み出すべきである
おほよそ統計に從はば
諸君のなかには少なくとも百人の天才がなければならぬ
*
新たな詩人よ
嵐から雲から光から
新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形を暗示せよ
新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴らしく美しい構成に變へよ
諸君この颯爽たる
諸君の未來圈から吹いて來る
透明な清潔な風を感じないのか
*
今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば
われらの祖先乃至はわれらに至るまで
すべての信仰や特性はただ誤解から生じたとさへ見へ
しかも科學はいまだに暗く
われらに自殺と自棄のみをしか保證せぬ。
誰が誰よりどうだとか
誰の仕事がどうしたとか
そんなことを言つてゐるひまがあるのか
さあわれわれは一つになって……

