捨て猫 村上昭夫
あれがひろわれることがないなら
世界はまだぶよぶよのかたまりだろう
およそあれがひろわれなかったことを
見たことがない
あれが誰にもひろわれなかったなら
世界は雨と風と吹雪のなかに
塩をかけられたなめくじのように溶けているはずだ
あれは捨てられたその時から
親も兄弟も
あれに加わる味方は誰ひとりいないのだ
親はあれのひろい主をかんじょうにいれて
また捨て子を生むのだ
夜中じゅう鳴きあかした
あれの鳴声が絶えたとき
もう何処をさがしても
あれの死がいさえ見つからない
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