シリエトク日記4 シリエトクの山から下りてきたのはヒグマではなく金髪の美女だった
8月2日(月)
ホテル「地の涯」の朝。ホテルの前の渓谷に天然の無料温泉があるので散歩した。僕の前で地元の小学生の姉妹がすっぽんぽんになって入って行く。――如何にもよい。――健康的で、潔くって、見ている私にさえ一抹のいやらしい気持ちも生まれない。――
そこを過ぎて渓谷の奥に向かう。――「ヒグマ注意! 立ち入り禁止!」の立札を過ぎる。――滝がある。――その手前にもまた「ヒグマ注意! 立ち入り禁止!」の札がある。ここから先は知床の原生林だ。――滝壺に向かう道も先細りになっている。――
引き返した。――と――背後から足音がした――ドッキっとして振り返る――とその先細りの滝から妙齢の女性が現れた!――思わず「高野聖」を思い出した――しかし、鏡花好みでないだろう――何故なら、彼女は二十代の金髪の異国人の女性だったからである。――
立ち止まっている僕のところへ来ると、彼女は
「ラウスダケ?」
と聞いてきた。――私は先導してホテルの裏側の羅臼岳への登山口を教えてやった。――
「アリガト。」
と言いながら、彼女は仏さまを拝むように両手を合わせて、僕にお辞儀をしたのだった。……いや、やっぱ「高野聖」だわ……
*
彼女には翌日の昼、羅臼からウトロへ戻るバスに、知床峠から乗ってくるのにまた出逢った。……この娘、一体、どこをどう歩いてここにいるのか?……やっぱほんと「高野聖」だわ……
彼女の方は残念ながら僕には気づかなかったのだが、彼女が運転手に「ダンケシェーン」と口にするのが耳に入った。――
……そうか、僕はドイツ語訳の“Kouyahijiri”の世界に迷い込んでいたんだな……と……思わず、僕は自分の腕をさすってみた……毛が生えてヒグマされていはしまいかと、ね……
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