シリエトク日記5 羅臼の蕎麦屋にて僻地過疎化を痛感せる事
8月2日(月)
羅臼に着く。バスターミナルのそばの蕎麦屋「しずか」で、普段は絶対に食べない海老天そばを頂く(海老は好きだが、天ぷらなるものが蕎麦とはゼッタイ合わないというのが僕の信条なのである)。半端じゃない。海老5尾だ。素敵に美味い。妻(さい)は何を血迷ったか、あつあつのカレー南蛮(!)蕎麦なんぞをすすっておる。地の涯まで来ると地磁気の影響か、好みまで狂うのであろうか?――
――背後の席に地元のおばあちゃんが二人、世間話をしているのが聞えてきた。――
「いえね……釧路に透析に行くのが、大変でねえ……秋には羅臼を出るんよ……」
「あんたもか……しょうがないねえ……みんな羅臼を去って行ってしまう……淋しいねえ……」……
*
翌日の昼、ウトロに戻るためのバスターミナルで、時間潰しに僕は調べてみたのだった。――
釧路の「市立病院行」は早朝の6:40にここを出る――
釧路市立病院にそのバスが着くのは実に4時間弱後の午前10:30である――
人工透析は最低でも3時間はかかる――
帰りの最終「羅臼行」バスは市立病院前15:45発である――
これに乗り遅れると、もうその日羅臼行きのバスは、ない――
その最終バスが羅臼に着くのは――夜の7:50である――
これが本当に「一日仕事で病院に行かねばならない」というのだ――
透析が必要な人はそれを最低でも週に2~3回は繰り返さねばならないのだ――
因みに羅臼~釧路市立病院前間のバス料金は――
往復割引でも、何と行って帰って来るだけで一日8400円!(透析が必要な方は障害者割引もあるとは思うけれど)――
――やっぱり淋しそうにウミネコが鳴く中、僕は暗澹たる気持ちになってバスターミナルの前に立ち竦んでしまったのだった……
*
……蕎麦を食い終えて――「繁華街」――としっかり表示された道を海に向かって歩く。――仕舞た屋が多い。――ショウウィンドウに裸のマネキンが埃を被って寝巻きを片脱ぎにしてつっ立っている。店内に人影はない――。院長の名前が一人書いてあるだけで、診療科目のプレートが虚しく抜き取られてやけにそこが白々としている。――診療所の窓が開いている。窓際に点滴の黄色い壜が風に揺れていた。――欠伸をした看護婦さんと目が合った。――聴こえてくるのは、ただウミネコの淋しい、鳴き声だけ……足の悪い妻が一緒だから「繁華街」を抜けるのに15分はたっぷりかかった。その間、「繁華街」を歩いていたのは――僕ら二人きりだった。――
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